赤岳~黒岳縦走 (2011年9月24-25日)

銀泉台→赤岳(2,077m)→白雲岳避難小屋→白雲岳(2,230m)→北海岳(2,149m)→黒岳(1,984m)→層雲峡

【層雲峡の夜】

9月22日に初冠雪のニュースが流れた直後の3連休、大雪山縦走を計画した。
9月23日の夕方、道北バスで層雲峡YHに到着。紅葉シーズンということもあってかなりの登山客が訪れていた。早速ビールでくつろいだ(笑)。そこで本州の登山客やフランス人の女性などと知り合うことができ楽しいひと時を過ごした。
朝5時前に起床、ユースホステルを出発し6時のバスで銀泉台に向かう。バスはとても混み合っていた。早くから並んだお蔭で座ることができたのはラッキーだった。

【銀泉台から赤岳へ】

赤岳登山口の銀泉台は標高1,500メートルに位置し、北海道では車で行くことのできるもっとも標高の高い場所だ。以前は赤岳の登山口はさらに下方の標高1,300メートル付近にあったのだという。1960年代に、大雪山を走る観光道路の計画が持ち上がったものの、住民の猛反対にあい計画は中止となった。その時に延長された道路が今の銀泉台だ。

登山口から20-30分ほど登ると、三脚を並べたカメラマンがずらりと並んでいた。ここは紅葉の有名なスポット。しかしながら空にはガスがかかり期待したような鮮やかな紅葉をカメラにおさめることはできなかった。

銀泉台の紅葉スポットから左上方に眼をやると、大勢の登山客がずらりと列を成して登っていくのが見えた。それもそのはずだ。バス2台で到着したあれだけの人数が同時に登っているのだから。

その後徐々に天気は悪くなり、霧の中をぐいぐい登った。

一瞬だけ太陽が顔を出したとき、ハイマツの奥に紅葉の山肌が見えた。

真っ赤なウラシマツツジの紅葉。

コマクサ平を後にし、登り始める。またガスがかかってきた。

しばらく急な坂を上り続けると、ようやく赤岳の山頂に到着した。山頂には大勢の登山客がくつろいでいた。

しかし、赤岳の山頂でも晴れ間が見えたのは一瞬だけ、うっすらと雪が舞ってきた。目指す白雲岳の方角は雲に覆われていて見えない。縦走を計画していた登山者の中にはそのまま諦めて下山していく人もいた。なんでもその人は昨年の同じ日に、旭岳で大吹雪にあい大変苦労したのだという。僕も諦めて下山しようかと思ったが、その時白雲岳の方角から単独で歩いてきた女性の登山者と会い、天気予報も上向きで避難小屋は遠くはないし風も吹いていないので歩きやすいですよ、と教えてもらい、結果的に縦走を継続することにした。

赤岳から白雲岳に向かう銃走路にて。

小泉岳で記念撮影。標識が無ければ山頂なのかどうかすらはっきりわからない場所だ。

白雲分岐付近にて。その後は晴れたり、曇ったりを繰り返していたが、結局この日は最後まで遠くの山々を見渡すことはできなかった。

白雲分岐の標識。

【白雲岳避難小屋】

ゆっくり歩いて、白雲岳避難小屋に到着したときには、すでに数人の登山客がくつろいでおり、僕は2階の開いているスペースに寝袋を広げた。時刻はまだ13時を過ぎたばかりだったが次第に空模様が怪しくなり、雪交じりの強い雨となってきた。早いうちに到着して落ち着いたのはよかったのだが、夜までの時間をつぶすのに一苦労であった。15時過ぎになって空模様はどんどん怪しくなっていた。僕の持っているソフトバンクのiPhoneは当然(?)圏外だったが、ドコモの携帯を持っていた登山者が天気予報を確認してくれた。それによると夜から明け方にかけて少しだけ天気が回復するもののすぐに下り坂になるだろうとのことであった。その予報にはさすがにガッカリさせられた。予報の通り、その後も天候は回復する気配がなかった。
 16時頃になって、もう一人の登山者が小屋に入ってきた。がっしりした体つきをしたその人は、大きなザックにお化けのようなデカイ三脚を担いでいた。聞けば本州から来たカメラマンらしいがこの寒い中なのに汗びっしょりでとても辛そうであった。その点僕の三脚はいい。僕のはGitzoのトラベラーカーボン三脚、G1541Tだ。丈夫なのにとても軽く重さは0.8kg程度しかない。
 何はともあれ、天気はその後も回復せず他の登山者と他愛もない話をして過ごした。足寄から来ていた60代の男性は職場の20代の女性と二人で来たのだという。なんともうらやましい話である(笑)。なんだかんだと時は過ぎ、夜を迎えたのであった。

【満天の星空、そして天の川】

状況が一変したのは夜20時を過ぎたころだった。すでに日は暮れ、なけなしのウィスキーもなくなり寝袋に入ろうとしたとき、ふと窓から外を見るとそこには満天の星空が広がっていた。普通では考えられないくらいの星に僕は期待を膨らませて静かに外に出た。雲海の広がる大雪の山々から壮大な天の川が立ち上っていた!

僕は三脚を立てると、ゆっくりとレリーズボタンを押した。時折流れ星が頭上を流れるのが見えた。小屋の隣にあるテントサイトでは十数張のテントが張られていたが、星空の下でぼんやりと灯った明かりがまるでキャンドルのようだった。
満天の星空が見えた夜の間、お化け三脚のカメラマンは小屋の中でずっといびきをかいていた。

【大雪山の夜明け】

翌朝目覚めたのは午前3時だった。厚着をしてダウンのシュラフにくるまっていても時折、寒いと感じることがあった。来年はもっとしっかりした防寒対策が必要だと痛感した。僕は静かに起き上がると荷物をまとめて午前4時前に小屋をでた。小屋ではお化け三脚のカメラマンはまだいびきをかいていた。
 東の空にはオリオン座をはじめとする鮮やかな冬の大三角が広がっていた。

星明かりの下、ライトを頼りに小屋を後にした。目的地は白雲岳。小屋はくぼんだ位置にあるため、そこでは日の出を見ることができない。白雲岳の山頂までは1時間ちょっと登る必要がある。雪の積もっている場所は足跡がついているので迷うことはなかったが時折、水が流れていたり雪がない場所で道がわからなくなることがあった。こういう時GPSがなかったら間違いなく迷ってしまっていただろう。
 一時間ほどの登りの後、白雲岳に登頂した。地平線には鮮やかなグラデーション、残月が頭上に輝いていた。

山頂で、僕はただ美しさに見とれていた。地平線に広がる夜明けのオレンジライン、はるか彼方に阿寒の山々を望む。 標高2,230メートル、北海道3番目の高さを誇る大雪山の白雲岳からの夜明けだ。

しばらくしてもう一人の登山者も山頂に登ってきて山頂は二人になった。そしてここまで登ってきた道を振り返ってみるとさっきは暗くてわからなかったが、ごつごつした岩場が天然の模様になっていた。

日の出と反対の方角を見ると、大雪山の主峰旭岳が目の前にどっしりと威厳を放っていた。朝の光をあびてゼブラ模様の山肌がピンク色に輝いて見えた。

そしていよいよご来光の瞬間、突然ガスがかかってきて辺りを覆い尽くしてしまった。

登ってきた太陽が一面の霧をオレンジ色に染め、幻想的な空間を作り出した!

山頂には霧氷をまとったチングルマが静かに寒さに耐えていた。

細かな氷の芸術が真っ赤な葉の輪郭をよりシャープに際立たせていた。

白雲岳山頂。

白雲岳山頂にて自分撮り。

日が昇ってしばらくしてもガスは一向に晴れる気配が無かった。南の方角にはトムラウシがくっきりと見えていたのに写真を撮る前にガスがかかってしまい、撮影できなかったのが心残りだった。朝日を浴びてピンク色に輝くトムラウシを撮りたかった。
 時刻は朝6時ごろ、もう少し山頂で粘ってみようと決意した。だんだん寒くなってきてお腹もすいてきたので、ザックからカップ麺を取り出して山頂で朝食を摂ることにした。昨日の夕方、避難小屋で何もすることが無かった時に食べてしまおうと思っていたものだったが、やはりあの時食べなくて正解だったと僕は自分を褒めたたえた。もう一人の登山者は「お気をつけてー」という言葉を残して下山していった。これからどこにいくのだろうか。
 お湯が沸いたあと指を突っ込んでみたがあまり熱くない。やはり高所だから沸点が低いのだろう。ラーメンができるか不安だったが数分待ったらちゃんとラーメンになっていて安心した。このときお湯はわざと少なめに入れておいた。山頂ではスープも全部飲み干さなくてはならないのでお湯を入れすぎると大変なのだ。

【トムラウシの絶景】

それから山頂で30分ほど粘ってみたが一向にガスが晴れる気配はなかった。相変わらずトムラウシの姿は見えない。このガレ場はナキウサギの生息地でもあるから、姿を見ることができないか望遠レンズを装着して待っていたがナキウサギの声すら聞こえなかった。早めに層雲峡に下山しなければならなかったからあきらめてザックを背負い下山の準備を整えた。
 ガレ場をゆっくり下り白雲分岐に近づいた頃、ガスが晴れて太陽がまた顔を出した。そして、これまでガスに隠れて見えなかった、さっきまでいた白雲岳の山頂が青空の下に姿を現した。
 しまった、と僕は思った。そして重いザックを背負ってまた白雲岳の山頂に引き返そうと思った。でもここで引き返すとタイムロスが大きい。悩んだあげく先へ進むことにした。結果的にこれが正解だった。

白雲分岐の近くまでさしかかったとき、僕は思わず声を上げた。眼前に広がるは一面の雪と岩...。神々の遊ぶ庭、大雪山に形づくられた、壮大なマーブル模様だ。

東の方角には雲海の彼方に、阿寒の山々が見渡せた。

僕は歩きながらトムラウシの姿を探していた。白雲分岐からは白雲岳が邪魔をしてトムラウシを見ることができないからだ。避難小屋方面に、GPSを頼りに登山道を逸れて歩いていくと、その先には雄大なトムラウシの姿があった!まさに天空の城という言葉がふさわしい。僕はザックを下ろし三脚を構えてシャッターを切った。しかしこの写真を撮った直後、右側から流れてきた雲によってトムラウシは再び霧の中へと消えていった。

撮影時の様子。

同じ場所からはさっきまで過ごした、白雲岳避難小屋とテントサイトが眼下に見られた。

【層雲峡へ】

白雲分岐から北海岳に歩を進めた。途中ではすばらしい風景が迎えてくれた。

広角レンズで自分撮り。この構図は足が長く見えるのでオススメだ(笑)。

ほどなく北海岳に到着。誰もいない山頂で思わず「ヤッホー!」と叫んでいた姿を、黒岳石室から登ってきた若い男性に見られてしまい恥ずかしい思いをした(笑)。
 彼は山頂に到着するや否や、「白雲見えない!」と落胆していた。ここから見える白雲岳はどのような山容なのだろう。

北海岳を後にしたあとは、お鉢平を見ながらゆっくりと歩いた。

最後の山、黒岳を経て層雲峡に下山したのであった。非常に充実した山行となった。ぜひ来年も来たいと思う。

(赤岳~黒岳縦走 2011年9月24-25日)
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