樽前山~風不死岳縦走 (2012年6月3日)

樽前山7合目ヒュッテ→樽前山東山(1,023m)→932峰(932m)→風不死岳(1,102m)→樽前山7合目ヒュッテ

全道的に晴れマークとなったこの週末、土曜日は子供の運動会でハッスルしたため、さすがに日曜日は家族全員が疲れていた様子。皆で出かけようと提案したものの、家で休みたいというので、やむなく(?)僕だけで出かけることにした(笑)。天が与えてくれたこの好機に、僕は樽前山から風不死岳までの縦走を計画した。しかし天気予報を確認すると全道的に晴れのはずが、千歳、苫小牧の予報が終日曇りになっているではないか。札幌の自宅からは恵庭岳がくっきりと見えたのにおかしいなぁと、僕は若干の不安を抱いた。
高速に乗り南に向かって走っていると恵庭のあたりから雲がかかってきて青空が消えてしまった。千歳で高速を降りて支笏湖方面へ向かうときも、どんよりと厚い雲がかかっている。やはり天気予報どおりか・・・。どんどんテンションが下がってきたまさにその時、一気に雲ひとつない青空が目の前に開けたのだった!!
10時半に到着した7合目の登山口は車と人でごった返していた。さっそく入山届けに名前を書いて登り始めた。

【登山開始】

登り始めるとすぐ背後に支笏湖の展望が広がる。おそらくこの写真は樽前山を登る多くの人が撮った写真でしょうね。

少し登って後ろを振り向くと、支笏湖の対岸、休憩を取る登山者の頭上に雲に浮かぶ山の姿が見えた。この山は山頂にアンテナが立っているから同定は簡単だ。この日はあの紋別岳にもたくさんの人が訪れたに違いない。

登山道から右を見ると、目指す風不死岳が堂々とそびえたっていた。これから待っているであろう絶景に僕の胸は高鳴った。

東山山頂までのルートは簡単だ。最初の急な階段を上りきれば展望の開けた稜線に出て、あとは気持ちの良い登りをするだけだ。しかもその眺めは圧巻。青空の下、背後に支笏湖を望むトレッキングは一度その爽快さを味わってしまったら二度と忘れられないに違いない。初めて登山をする人にはこんな山がオススメだろうと思う。一方、その点では羊蹄山はまったく逆だ。あの山は登りが長くてつらい上に最後まで展望がないから、初心者が登ったならば登山が嫌いになってしまうだろう。僕の職場にはまさにそんな不幸な人種がいる。

さわやかな風を浴びながら東の方角を見やると、眼下には千歳市街方面が厚い雲で覆われているのがわかった。そして不思議なことに雲は支笏湖の手前で途切れていた。高速道路で千歳市街を通って来た時には曇り空だったのが支笏湖まで来て一気に晴れ渡った理由が一目でわかった。折しもこの日は、友人が千歳JAL国際マラソンに出場することになっていたから、彼にとっては曇り空の方がありがたかったに違いない。

【東山山頂へ】

東山と西山の分岐に到着すると、眼前に噴煙を上げる火山ドームがその全容を現す。その姿はいつ見ても迫力満点だ。それもそのはず、樽前山は現在日本で最も火山活動が活発な山の一つで、眼下に見える雄大な支笏湖も4万年前の噴火でできたカルデラ湖なのだから。

外輪山分岐から東山に向かって少し登った時、僕は思わず感嘆の声をあげた。溶岩ドームの右端から残雪の羊蹄山が姿を現したからだった。僕はここから羊蹄山が見えるとは知らなかった。もちろん2007年に書いた僕の登山記録にも載っていない。その時は見えなかったのかそれとも気づかなかっただけなのか。樽前山は昨年も長女(当時小2)と登ったので、ある程度は慣れているつもりだったがこれほどまでに他の山々が見えるという事実に、僕は認識を新たにした。

望遠レンズをつけたついでに、後ろを振り返ってみると、西山方面に向かう登山者が豆粒のように見えた。苫小牧方面は相変わらず雲海の下だ。

少しの登りの後で、東山山頂に到着した。ここでは数名の登山者が休憩を取っていた。盛夏の時期はかなり虫も多かった記憶があるが、この季節はまさに快適そのものだ。溶岩ドームの奥には羊蹄山の姿が際立っていた。

山頂にはカップルの姿もあった。そういえば10数年前の学生時代、僕も結婚前に細君と一緒に大雪山や阿寒の山に登ったことがあった。今となっては甘酸っぱい思い出である。子供が大きくなったらいつかは高い山を家族で登りたいなぁと思う。

山頂からの景色はもちろん絶景だ!
目の前には支笏湖と風不死岳、さらに遠方には恵庭岳や紋別岳も一望できた。

下の方を見ると先ほど出発した7合目登山口の駐車場が見えた。その中には今年で走行距離11万kmを超えた、わが家の愛すべきオンボロ車も見えた。せっかくなので望遠レンズを取り付けて撮影してみた。支笏湖畔から登山口に至る曲がりくねった道路の様子がよく見えた。

【932峰へ】

しばらく休憩を取った後、外輪山を反時計回りに稜線をたどって歩いた。時おり雷鳴のような轟きが下の方からこだましていたが、その理由は結局わからなかった。件(くだん)のJAL国際マラソンで号砲でも鳴らしていたのだろうか?
稜線をたどる行程ではずっと羊蹄山がその雄姿を見せていた。

樽前山の稜線より、932峰と羊蹄山を望む。

一旦コルまで下ると932峰と風不死岳の分岐に差し掛かる。932峰までの往復は30分程度だ。せっかくここまで来て登らない手はないだろう。

軽快に坂を登りきると、932峰の頂上に立った。932峰からは木々が邪魔をして支笏湖はおろか風不死岳すら見ることができないが、はるか遠方に雲海に浮かぶ羊蹄の姿をくっきりと見ることができた。

932峰より雲海に浮かぶ羊蹄山を望む。

【風不死への隘路】

しかし、足取りが軽やかだったのはここまでだった。932峰での休憩もほどほどに最終目的地の風不死岳に向かうことにした。932峰からは直接、風不死岳にはいけないので一旦来た道を戻る必要がある。後ろを振り返るとこれまで歩いてきた樽前の稜線が東山まで続いているのがみえた。風不死岳への分岐で50歳くらいのオジサンに出会った。「風不死からですかー?」と声をかけてみるとオジサンは汗をふきふき、「そうですよー。」と心地よさそうに答えてくれた。話を聞けばここから山頂は2時間ほどの道のりだそうだ(知ってたけど(笑))。

分岐を左にそれて風不死岳へ向かう。目の前には草木が繁茂し、いかにも山道という感じだ。この点は砂礫で覆われた樽前山とは対照的と言えると思う。

しばらく歩くと風不死岳登山口と書かれた看板が見えた。僕はここで一旦ザックを降ろし、熊鈴をつけることにした。と同時にGPSの電源をONにした。実はGPSは最初からONにしておけばトラックデータも残ったのだが、ただ単に忘れていただけだ。

ここから963mコブまではかなりの急登となる。
「これぞ風不死の登り」と、本にも書かれていたが、まさにその通りの険しさだ。これを英語で表現したら、"precipitous"という形容詞がふさわしいだろう、もし外人に出会ったらそうやって説明しよう、と思っていたが結局最後まで外人に出会うことはなかった。

栄養ドリンクのCMばりに、両手で鎖をつかんで登っているとき、僕はこの登山道を開削した先人たちのたくましさに畏敬の念を抱いた。と同時にもっと楽な経路に登山道を作ればよかったんじゃないかと逆に腹を立てたりもしていた。

急登を登りきって下を見下ろしたところ。
この辺の撮影はほとんどiPhoneでとっている。

やっと傾斜が落ち着いたところで僕は相当な疲労感を感じていた。心臓や肺はまったく平気だったのに足に全く力が入らないのだ。明らかにバテている症状だ。考えてみれば出発前に朝食を摂って以来、水分以外なにも口にしていなかった。できれば展望の良いところで食事タイムといきたかったがここはあきらめて腰をすえ、ザックからおにぎりと飲み物、カメラを取り出した。

【風不死岳からの展望】

食事休憩をとってしばらく休むと僕の全細胞の解糖系がフル回転しているのがわかった…。いやちょっと待て、解糖系でピルビン酸ができてそのあとどうなるんだっけ?と忘れかけた生物の知識をフル動員してみたが思い出せるはずもなく、諦めて登山を継続することにした。
時折すれ違う人を振り返ると後ろには木々の間から樽前山の姿がのぞいていた。山頂はもうすぐだ。

偽ピークと呼ばれる場所に出ると一気に展望が開けた。これまでの疲れがウソのように吹っ飛んで行った。それから少し登ってようやく念願の山頂に到着だ!

山頂からは紺碧の支笏湖が広がっていた。そして目の前には先週登った恵庭岳の全貌が見渡せた。

恵庭岳をアップで撮ってみた。支笏湖のブルーが空の青と溶け合って、まるで恵庭岳が空に浮かぶ天空の城のように見えた。山頂では僕のほかにもう一人登山者が休んでいたがその男性はまもなく荷物をまとめて下山していったので、僕は十分にこの眺めを独り占めすることができた。

写真を撮る図。
たいていは手持ちだけどせっかく三脚があるので、わざわざ使ってみた。

三脚を立てたついでに、誰もいないのをいいことに自分撮り。やっぱり絵になっていない…。
話は変わるが、僕は以前、同僚の女の子に彼氏の写真を見せてもらったことがある。こんな時、写真の人がもしイケメンだったら「かっこいいね。」と言えるし、もしそうでなかったら「良さそうな人だね。」と褒めることだろう。しかしその時見せてもらった彼氏はイケメンでもなく良い人そうでもなかった。答えに困った僕は思わず、「いい構図だねぇ。」と言ってしまったのを覚えている。
つまるところ、この僕の写真で自慢できるのは同僚の彼氏の写真と同じく、構図だけである(笑)。

山頂からはもちろん、樽前山もくっきり見えた。山頂に着いたのは14時過ぎだったが、この時刻は写真の光線状況としては絶妙だったと言える。もちろん予めシミュレーションしていたのだが、つまり午前中だと樽前山は逆光になってしまうし夕方近くだと今度は支笏湖が逆光になる。やはりトップライトの13時から14時くらいまでがいい時間帯なのだろうと思った。

【いよいよ下山】

下山ルートは途中まで来た道を引き返し、その後樽前山の7合目登山口までトラバースして戻るコースだ。帰り道もまた登りのときに味わった急斜面を下りなければならないが注意しながらストレスなく進むことができた。山頂近くの稜線ではハクサンチドリが咲いていた。

分岐から樽前山を見上げる。
ここから樽前山を見るのは初めてだった。荒々しく浸食された斜面と残雪のコントラストが美しかった。

道端に咲いていたウコンウツギと支笏湖。

蕾のものも多かったけど、中にはせっかちなエゾイソツツジも花を咲かせていた。

だいぶ西に傾きかけた太陽を背に、眺めのよいコースを歩く。

登山口に近づいたころ、一筋のヒコーキ雲が樽前山に吸い込まれていった。

まもなく登山口に戻った。楽しく、スリリングな一日がこうして幕を閉じた。

駐車場では、午前中あれだけごった返していた様子とは裏腹に数台の車が残っているだけであった。また違う季節にこの山に登りにこよう。そう心に誓い、帰りを待っていてくれた愛すべきオンボロ車に向かって、僕は最後の歩を進めたのだった。

(樽前山~風不死岳縦走 2012年6月3日)
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