羊蹄山 (2012年6月24日)

真狩登山口→真狩分岐→(反時計回り)→羊蹄山(1,898m)→真狩分岐→羊蹄山避難小屋→真狩登山口

全体的に悪天候が多かった2012年の6月下旬、かねてより予定していた羊蹄山に登ることになった。今回は前の職場で一緒だった、友人の山ガール(山レディ??)と一緒である。実は今回羊蹄山にしようと言ったのは彼女の方だったのだが、僕は最初あまり乗り気ではなかった。僕は羊蹄山には一度登っただけだけど、登りが長いうえに中高年の登山ツアー客に悩まされた苦い経験があったからだ。十勝岳などの広い山を縦走するプランも提案してみたものの、羊蹄山を初登頂したいという彼女の気持ちがとってもよくわかる。そこで最終的に予定を決行することにした。
一昨年僕が登ったコースは比羅夫コースだったけど今回は真狩コースを選んだ。朝3時に札幌を出て、約1時間半で真狩村に到着した。天気はあいにくの曇りだったが時折雲間から山頂が見えており、淡い期待とともに登山口に向かった。

【登山開始】

道道66号線を右側に入り、真狩キャンプ場の駐車場に車を止めた。キャンプ場がそのまま登山口になっているのだ。実際に行ってみて、僕は真狩キャンプ場がとてもよく整備されていることに驚いた。トイレもきれいに清掃された水洗トイレだったので、ここでキャンプをしたらさぞかし快適だろうなと思った。遊び場も多そうだし今度家族でキャンプに来るのも悪くないなと思った。
登山口にはクマゲラの絵が描かれたかわいらしい看板があった。ここで名前を記入して午前5時いよいよ登山開始だ。

しばらくは道幅の広い林の中を歩いた。始めのうちは他の登山者に出会うこともなくマイナスイオンに溢れた快適な山歩きを楽しむことができた。
一合目の標識をすぎたころから、鳥たちの美しいさえずりがいたるところから聞こえてきた。友人は「森のリラクゼーションCDみたいで心地いいね。」みたいなことを言っていたが、それはなんだか逆のような気がしないでもない(笑)。
そういえば美しい鳴き声の三大野鳥というのを以前、野幌森林公園を散策中に通りがかりのオバサンに教えてもらったことがある。オオルリとキビタキと…あとなんだっけか?今この文章を書いている時にもGoogle検索してみたがやはりわからない。したがってその答えを知るためには、また野幌であのオバサンに出会うしかない。しかしそのオバサンの顔も忘れてしまったのでこの問題は永遠にお蔵入りになってしまった。

登り始めて40分ほどで2合目をすぎ順調なペースで高度を稼いだ。しかし羊蹄山はその形状からもわかるとおり高度があがるほどに険しさも増してゆく、まさに登山者泣かせの山なのだ。
二合目をすぎてしばらく登るとまた看板があった。もう三合目か!?と喜んだら、「二合目半」と書かれていた。これは新しいタイプのギャグか、はたまた嫌がらせか?(笑)

登山道では春の花が僕らの眼を和ませてくれた。しかし高山植物帯はまだまだ上の方だ。
写真はマイヅルソウ。北海道の野山ならどこででも見られる花だ。
余談だがこの写真はアングルファインダーを使用して手持ちで撮っている。最近のレンズの手ぶれ補正機能、そして高感度での低ノイズには本当に驚かされる。

三合目をすぎたあたりから、これまでエゾマツに覆われていた視界が開けてきた。この時点で標高はすでに1,000メートル付近。下界は残念ながら雲に覆われていて見えなかったが、晴れていたら真狩市街や洞爺湖方面が見渡せたことだろう。景色は見えなかったものの涼しい風と時折見える青空に後押しされるように、僕たちは軽快な山登りを楽しんだ。

しばらく登って南の方角を見やると、下界はまさに雲海に覆われていた。そして遠方には、有珠山が雲の上に浮かんで見えた。つまり洞爺湖はそのあたりの雲の下にあるということになる。しかし洞爺湖はおろか、昭和新山さえもその姿を見せることはなく、有珠山もすぐに左側から流れてきた雲によって視界から消えてしまった。

望遠レンズで撮影した雲海に浮かぶ有珠山。

【五合目をすぎて】

五合目に近づいたところで、山岳ガイドに率いられた9人の中高年の団体登山者に追いついた。いや、むしろこれまで団体登山者に出会わなかったのが意外だったくらいだ。日本百名山の一座である羊蹄山は本州からツアーでやってくる中高年の登山者が多い。進むのも遅いので追い越すことになるのだが、こちらが上で休んでいるとまた追い越されたりとデッドレースを繰り広げる羽目になることも多い。2010年に比羅夫コースを登ったときは団体客の一人に暴言を吐かれたこともあり、かなりいやな思いをしたのだが、幸い今回の真狩コースは道幅も比較的広く、団体客もみな気さくな方だったので助かった。
五合目到着時は午前7時すぎ。ザックを降ろして食事休憩を取ることにした。

六合目を過ぎると、エゾマツなどの針葉樹林帯を抜けてダケカンバの森となる。登山道には風雨の影響なのだろうか、地面を這うように幹のまがったダケカンバの木があった。まるで羊蹄山の斜面から触手を伸ばして襲ってくるスーパーナチュラルな生命体のようだった。

高度を上げるにつれて道幅はせまくなり急な道も多くなってきた。昨日までの雨の影響でぬかるんだ場所も多かったので歩行には注意を要した。
ゆっくり登って八合目に到着したころには時刻は午前8時半になっていた。そこではすでに一人の中年のオジサンが心地よさそうに休んでいた。そして僕たちの姿を見るなり、「もうここまで来れば大丈夫だよ。」と言っていた。何が大丈夫なのかわからなかったが、なんとも気さくな人だった。そのオジサンは自分は富山県からやってきたと言っていた。なんでも日本百名山を制覇中でこの羊蹄山が96座目なのだとか。しかも今夏、北海道のトムラウシと幌尻岳登山を計画しているらしい。見た目はただのメタボおじさんなのに、人間は外見ではわからないものである。

オジサンに別れを告げ、八合目を後にするとガレ場をトラバースする開けた場所に出た。晴れていたらここからの展望も素晴らしかったに違いない。この辺りではイワベンケイやミヤマキンバイなどの高山植物がいたるところに咲いていた。しかし一面に群落をなすイワブクロはまだ蕾であった。今年は雪解けも遅かったせいか少し開花が遅いのかもしれない。
写真を撮っているとさっきの富山のオジサンがお先にぃといいつつ僕らを追い越して行った。

9時過ぎになって九合目の看板が見えた。ここを左に曲がれば羊蹄山避難小屋であるが、僕たちはまっすぐ山頂を目指すことにした。
実は羊蹄山は九合目からが長い。実際の山頂は火口の外輪にでて30分ほど歩く必要があるためだ。天気の回復を祈りつつ登っていくとまたさっきの富山のオジサンが休んでいた。本当によく休むオジサンである(笑)。そして今度は自分が羅臼岳に登った時の事を語ってくれた。その時は雨の中、登山ガイドを雇って2人で登ったらしいが、登山道に出来たてホヤホヤの熊の糞を見つけて恐れおののいたのだという。最終的に何とか熊に遭遇せずに登頂できたとのことであった。

オジサンが休んでいた場所からは、羊蹄山の避難小屋がよく見えた。2010年に改修工事が行われたと聞いていたが少なくとも見た目はどこが改修されたのかわからない。
いつかはあそこに泊まって羊蹄山からのご来光を拝んでみたいものだ。

【火口の分岐へ】

火口に向かってどんどん登っていくと、羊蹄山の肩の部分に出た。火口まではその稜線をしばらく登らなければならない。
稜線に出た時、それまで雲に覆われていて見えなかった眼下の町並みが一瞬だけ顔を出した。このとき友人は満面の笑みを浮かべていた。その姿を見た時、僕はああやっぱり羊蹄山にしてよかった、と改めて思った。

火口の外輪に向かう途中には雪渓が残っていた。友人はなぜかストックで雪を掘っていた(笑)。これでかき氷を作ったら最高だったろうね。かき氷用のシロップでも持ってくるべきだったかな(笑)。

道端ではピンク色のかわいらしいエゾノツガザクラが風に揺れていた。

それからしばらく登って9時40分に火口の淵に到着した。9合目出発からすでに40分ほどたっている。羊蹄山には大きな火口が3つあり、大きさの順にそれぞれ父釜、母釜、子釜と呼ばれている。父釜を時計の文字盤にたとえて、今いる場所を6時だとすると山頂は2時くらいの場所にある。そのため反時計回りに行くと距離的には短いのだがこのルートは岩場が多くて非常に歩きにくいのだ。どちらにしても火口を一周しようと思っていたので反時計回りに山頂を目指すことにした。

同じ場所から父釜をのぞき込むと、底にはエメラルドグリーンの雪解け水が輝いていた。対岸には目指す山頂が見えた。
真狩コース分岐は火口に対して南側に位置している。したがって日陰になりやすい手前の斜面に雪が残っている様子がよくわかる。
画像をクリックすると拡大画像で山頂の位置がわかります。

【そして羊蹄山の頂へ】

岩場を経由して山頂へ向かうルートは予想以上に歩きにくかった。大きな岩が幾重にも重なり、風の強い山頂でよくバランスを保っていられるものだ。友人はこんな時に大地震が起こったらどうしようと心配していたが、もしそんなことが起きたら間違いなく火口へ真っ逆さまだ。
(この写真の向かって右側が火口)
歩いて来た方向を振り返ると、ほとんどの人が時計回りに山頂を目指しているのがわかった。富山のオジサンもまたしかりだ。

岩場を慎重に進んでいくとまたガスがかかってきて山頂が見えなくなってしまった。左手にはずっと父釜が異様なまでの姿を見せていたが、ガスがかかってくるとより一層その迫力が増して見えた。

30分以上におよぶ岩場の歩きの間、ハイマツの陰にミヤマキンバイなどの高山植物が咲いていた。しかし何よりも岩に貼りつくように咲いている小さなイワウメの花が白眉であった。大きさ1センチほどのこの小さな花は、風強いこの山頂で毎年、初夏に白い芸術を魅せているのだ。

ついに山頂に到着!標高1,898メートル、日本百名山の一座を踏んだ。友人も思わず感嘆と安堵の声を上げていた。そして、これで友だちに自慢できるわー、と鼻高々であった(笑)。何はともあれご苦労さまでした(^-^)。
山頂ではすでに、時計回りに歩いてきた富山のオジサンがまったりと休んでいた。本当にこのオジサンは休んでばかりだ(笑)。 そのほかにも山頂には団体のツアー客をはじめ沢山の登山者が集まっていて、標識で記念写真を撮ろうと長蛇の列ができていた。その中には60歳くらいの女性もいた。しかしやっとその女性に順番がきたとき、自分のカメラのバッテリーが無くなっている事に気づいたようだった。女性はせっかく山頂まで来たというのに、すごく悲しそうな表情になっていた。ガイドさんも「あーあ…」とやや冷淡な言葉を漏らしていた。見かねた僕が写真を撮ってあげようと思ったとき、その女性のカメラが何とか動いて一枚だけ記念写真を撮ることができた。その時の女性の笑顔がとても輝いていたのはいうまでもない。

僕も友人に記念写真を撮ってもらった。「サマになってないねっ」と言われた。余計なお世話である。自分で言うのはいいが人に言われたくはない(笑)。

【いよいよ下山】

山頂は風がつよく、手袋をしていないと手が冷たくなってしまうほどだった。帰りのことを考えるとあまり長居もしていられないので荷物をまとめて下山することにした。時間があれば山頂で優雅にドリップコーヒーでも、と思いバーナーとコッヘルを持ってきていたのだが結局使わずに終わってしまい、ただ僕の疲労を増幅させたに過ぎなかった。
反時計回りに外輪を回り、父釜と母・子釜の間を抜けて真狩コースへの分岐を目指した。

途中で、登山用ストックのキャップを拾った。僕のストックはキャップがとれていたので、ここは敢えて交番に届けるという殊勝なことはせず、僕のストック用に再利用させてもらうことにした。実を言うと、こないだも恵庭岳で拾って喜んでいたら2週後の風不死岳で落としてしまったという経緯がある。モノというのは結局は巡り巡っていくものなのだ。

真狩コースへの分岐に戻ると、大勢の登山者が列をなして山頂を目指しているのがわかった。

ここから登ってきた道を下り、九合目から羊蹄山避難小屋に立ち寄った。避難小屋に至る途中で雪解け水の水場があった。小屋の外にある木製のテーブルとイスでやすんでいると、小屋の中から管理人っぽい若い男性がビールを持って水場のほうに走って行った。ビールを冷やしに行ったのだろう。たしかに仕事とはいえこんな何もない山奥で夜を過ごすためにはビールでも飲まなければやりきれないだろう。その様子を見ていた友人は、「帰りにビール盗んでいこ!」と極悪非道なことを言っていた。

下りるときは登り以上に気を使った。とくに崖のようになっている場所は地面もすべりやすいので下手をすると尻餅をつきそうになる。

七合目近くでゴゼンタチバナの花が咲いていた。この花は登りのときにも見かけたのだが、咲いていたのは一部の場所しかなく写真を撮り損ねていたのが心残りで下りの時に撮影しようと思っていたのだった。
僕は三脚を取り出してゆっくりと、この小さく可憐な花にピントを合わせた。

4合目ほどまで下ると、ガスが晴れて下界の様子を見渡せるようになった。はるか遠方には、登りのときには見えなかった洞爺湖が望まれた。洞爺湖の中島の間から昭和新山、そしてその右側に有珠山も見えた。
この写真を撮っている時、後ろから大学生くらいの若いカップルが下りてきた。女の子はこの景色を見て、「うわぁ、やばーい!」と言っていた。何がやばいのかわからなかったがそれを見ていた彼氏(らしき人物)が洞爺湖を指さして「あれ、定山渓だよ!」と話していた。
僕がもし名探偵コナンだったら、間違いなく「バーロー。」と言っていたことだろう。

膝に堪える長い下りの後でようやく登山口に戻ったとき、時計は午後3時30分を指していた。駐車場まではあと一息だ。
足取りも軽やかになったときに足元に小さな生き物が動いていた。エゾヤチネズミだ。Wikipediaによると、そのかわいらしい姿とは裏腹に環境被害などをもたらし、エゾシカと並んで農林業の加害獣とみなされているのだそうだ。
何はともあれ、こうして有意義な羊蹄山登山は終わった。また機会があれば別のコースから、でもしばらく羊蹄山はやめておこうと笑いつつ、札幌へと戻ったのだった。

(羊蹄山 2012年6月24日)
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