ナキウサギ

前トム平からすこし登るとガレ場にでる。そこではいたるところからナキウサギの、あの「ピチーッ」という声が響いていた。その声がするたびに目を凝らしてみるがなかなか姿を見ることは出来ない。 時間を食うわけにもいかないのでキョロキョロしながら登っていたら、前方に青いTシャツの男性が立ち止まっていた。青シャツさんは手に双眼鏡を持ちながら、こっちをむいて「シーッ!」と人差し指を口の前に立てた。 ナキウサギだ! このトムラウシでナキウサギの姿を見れて僕はうれしかった。もう少し近くに来ないかなぁと腕を組んで待っていたら、のんびりした僕の姿を見た青シャツさんが「一眼レフ持ってるならカメラを構えた方がいいですよ!」と囁いた。おおそうだ、写真を撮るのを忘れていた(笑)。僕はナキウサギを驚かせないように静かにポケットから望遠レンズを取り出して、その愛らしい姿を撮らせてもらった。そのとき下方から、某有名バイオリニストに似た髭の男性がひぃひぃ言いながら登ってきた。その男性は急いでカメラを取り出していたがその間にナキウサギは逃げてしまった。彼はひどく落胆し「これだからペン○ックスのカメラは駄目なんだ。」とカメラに八つ当たりしていた。
(トムラウシ山 2012年8月14日)
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