絵笛夢想

日高本線には絵笛(えふえ)という駅がある。日高本線のご他聞にもれず無人の小さな駅だが、どことなく心惹かれる駅名だ。

ちょうど一年前の2009年8月5日付け読売新聞の"編集手帳"にこのようなコラムが載っていた。
<土地の地名はたぶん光でできている>と、大岡信さんの詩「地名論」にある。
駅の名前もたぶんそうだろう。
先日の小欄で時刻表を旅する愉しみに触れた。
沈んだ気分にふっと光が差し、灯がともる心地がする、と
まだ訪ねたことのない北海道・JR日高線の駅「絵笛」を例に引き
「童画の世界に誘われる」と書いた。
それを読んで函館市の医師、水関清さんが
思い出をお便りに綴ってくださった。
11年前、4歳の坊やと旅をした時である。
『え…ふ…え』。
停車駅で坊やは、ひらがなの駅名標から
一つずつ字を拾って声に出し、上から読んでも
下から読んでも同じであるのを発見した喜びに、
駅の名を連呼してはしゃいだという。
その年の冬、坊やは事故で亡くなった。
坊やとの旅を童話の形にまとめた文章が同封されていた。
その一節。
「のぶちゃんのこと、大好きだった…。
とても会いたくて。
いっしょに汽車に乗りたくて
もう一度会いたくて
一度だけでもまた会いたくて…」

時刻表をひらく。
空想の駅に、きょうは雨が降っているらしい。
駅舎の灯がにじみ、『絵笛』の文字が読めない。

(2009年8月5日付 読売新聞、編集手帳)
初めて訪れた絵笛駅は馬たちが静かに草を食む、のどかで素晴らしい場所だった。
おそらくこの光景は12年前、少年が見たそれに近いものであったに違いない。
またいつかここに来よう、と僕は心に誓った。
(日高本線 絵笛駅)
(浦河町 2010年8月7日)

There is a railroad station named Efue in Hidaka line, JR Hokkaido.
This station, as well as other ones in Hidaka line, is small and unmanned.
Efue means "Picture of Whistle" in Japanese. Its name really fascinates me.
About 1 year ago, I read about this station in the column of Yomiuri newspaper.
It mentioned that the 4-year-old boy who had liked this station died in an accident.
At my first visit there in this summer, I could see a beautiful, idyllic scene around the station where horses were grazing grasses in the field.
I wanna visit there again someday by all means.
(Hidaka line, Efue sta.)
(Urakawa town, Aug. 7, 2010)
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